以前に広告写真の撮影を当社スタジオで行い、web サイトがアップされたので、そのタイミングでブログを書いてみました。
このブランドはSDGsの取り組みとして、使用した塩化ビニールの端材を再生利用して、バッグや小物を製作しています。
MISTY LAYER Web Site:https://mistylayer.com/ 再生プロセスを含めて詳細はこの公式メーカーサイトにあります。
また、EC サイトもリンクされていますので、具体的な商品もご覧頂けます。
私のブログではいつも通り、撮影者の観点からの内容になります。
最初にシンプルな白ホリゾントの前でシンプルなライトで影を作らない様な絵作りをしました。白の衣装と黒いバッグの色的なコントラストを作り、商品が目立つことを狙いました。アンブレラ2灯で影を消しあったので、壁と衣装の白、そしてバッグの黒のみで中間色を作りませんでした。
スタイリストがテクスチャー付きの半透明のトップスに紺のインナーが見える様な衣装をセレクトしているので、バッグに上手く調和しています。もし、テクスチャー無しの衣装だったらバッグが目立たないので。しかも色合いがバッグと同系色なのでお洒落な感じです。一つ上の写真の場合は逆でバッグに柄が付いているので、逆に衣装はテクスチャー無しで喧嘩しない様に上手く計算されています。そして、色は反対色でコントラストということで狙いのブレは無いなと。
外光とストロボのミックスでの撮影。外光を入れるという事はかなり遅いシャッタースピードで、ストロボ光量は極力抑えて撮影しました。ストロボがゼロだと部屋の中は電気が消えているという設定になり、窓の反対側は暗くなり商品が見えにくくなります。かといって、ストロボが強すぎると外光の光量が負けて暗く夕刻っぽくなります。そのバランスを見つけるのが窓際撮影の難しいポイントです。というのも、通常のポートレートであれば、絞り開放でF1.2くらいで撮影しますが、今回は商品撮影がメインであり、人物はあくまでも商品を魅せる為のストーリーを作る要素であり、メインではありません。よって、バッグがボケ過ぎないF値を見つけるのが困難でした。絞りすぎるとカタログっぽくなり、ライフスタイルの提案要素がなくなります。この微妙な外光とストロボ光のバランス及び、遅いシャッタースピードにより、動画撮影の露出の値に近づき、シネマカメラで撮影した映画の様な風合いが実現しました。
次は夏の夕刻感を演出。リゾート地にビーチから上がって、シャワーを浴びてお出かけする様な夕食前の時間帯をターゲットにしました。例え街中であってもイメージは同様。バッグの色、衣装の色、アクセサリーの色から白ほりをスタジオのタングステン照明をストロボにミックスしました。この調合は本当に微妙です。薄いベージュから焦茶色までの色合いをコントロールしていきます。この写真では全体の色合いを優しく統一しました。
こちらは大人っぽい雰囲気に仕上げました。衣装とバッグから逆算して色合いや風合いを作りました。このバッグの素材感に合った風合いを実現できたのは、ライティングで色作りをしたからです。これがカラーペーパーの前で撮るという普通のパタンだと、濃淡が表現できずにフラットな応募用の宣材写真の様になってしまいます。
カラージェルを使用して色付けする場合に注意する事は被写体に光が回って来ないようにする必要があります。被写体も含めて一緒に色付けするのは技術的には一番簡単で、前から被写体めがけてカラージェル付きストロボを打てばいいだけです。
順番として、まず、メインライトで被写体を照らします。その場合、白い箇所には色が付かないので、背景を染めたい色合いの明度までのグレーを作り、そのグレーに対して色を付けて行くというのが考え方です。被写体に対してのストロボと背景に対してのストロボの光量のバランスをどの程度の絞りで対応できる値を作って行くのが、何度行っても難しいです。
こちらはホテルロビーで人を待つ様なシーンをイメージしました。こちらも商品がスタイリングやライティングと一致しているので、しっくりという絵作りです。
シチュエーションや目指すイメージを毎回、モデルに伝え、それを撮影者とモデルの間で共有した時にいい写真になります。決して、モデルにポーズや表情を伝えたり、作らせたりするべきものでは無いです。カメラマンが指示して物理的にモデルにそうさせるというアプローチを行うことは例外を除いて私は行いません。例外とは動けないモデルの場合です。
夏の外をイメージしてスタジオ内で撮影しました。太陽光を表現する為に金属系リフレクタを使用し、ディフューザーを使用せずに直接にストロボ光を被写体に当てました。上記(それまでの写真)のしっとり系とは逆に、テカリ感を表現しています。影の位置をコントロールする為、撮影アシスタントにコロのついたスタンドに取り付けられたストロボを撮影角度によって追従させて撮りました。
後半のモデルの撮影に入りました。全体のトーンを考えました。青系なのか、緑系なのか。そこでその両方の色を両脇に作り、中央でグラデーションを掛けて混ぜ合わせました。衣装とバッグの双方の色をカラージェルをつけたストロボで作ったので、写真として成立しました。これ、もしどちらか一方だと違和感があったかもしれません。いや、私自身、最初に1色でのグラデーションでテスト撮りをして違和感を感じたので、2色のミックスにしました。衣装の青系、そして、バッグに合わせてのネックレスやブレスレッドの色合い、そして背景の色合いが秀悦。これもバックペーパーでは撮れない風合いで、塩化ビニールの鞄の素材にフィットしているかなと。
大人のおしゃれ心のあるバッグ。モデルの顔つきやヘアーのディテールにシャープさを、そして、どこそこ、スタイリングにレトロ感が表現されていて、これがまたオシャレかなと。くっきりと撮影しました。
シックでシャープなスタイリングの定番は、やはりこの白ホリをグレーに落とし込む絵作り。これ系も決してバックペーパーを使用せずにあくまでもライティングで作り込んでいきます。フラットでチーズィーにならない様に。モデル、スタイリング、ライティングが一致して、ハイファッションの世界をイメージしました。
浴衣といえば、祭りやイベントの前の時間にお出掛けになるので、午後3時頃をイメージしました。
スタジオの漆喰壁を使用して、和の雰囲気を作りました。スタイリングの色合いはこれも決まっています。陰影をつけ過ぎると重くなるので、最低限、背後の壁にモデルの影をつけました。全くのフラットにしてしまうと、漆喰壁の意味が無く、テクスチャーがなくなってしまいます。漆喰壁の横線、帯の縦線が表現される程度の陰影に仕上げました。
最後はメインビジュアルになる写真です。このブランドはやはりSDGsの取り組みの一環である地球資源の有効活用であり、具体的な素材は塩化ビニールなので、それがあえて分かるような絵作りにしました。ポートレート撮影だと人物のみに浅い被写界深度でフォーカスして、背後や前はボカすのですが、商品撮影の場合は、ある程度の絞りは必要になります。そこで、逆に周りの塩化ビニールが分かるようにしました。モデルの衣装も塩化ビニールです。そんな中、全くのクリアにするのか迷いましたが、ヘアのビニール素材の色のアクセント色の色合いのカラージェルが付いたスポットライトを数灯モデルを避けて背景に部分的に当てました。
このシリーズはパソコンで見る場合に最適な横位置、そしてスマホで見る場合に向いている縦位置での両方で、立ち姿や座り姿を撮影しました。撮影データをwebデザイナーがセレクトしやすくする為です。通常のポートレート撮影との違いは、データ納品後にもワークフローは続く事です。広告写真の場合は、次工程、後工程の人が使いやすいデータを作成する事が重要であり、いつもそう心がけて現場撮影に臨んでいます。
今回の撮影のメイキングの様子(BTS映像)をYouTubeにて纏めましたので、是非、ご覧ください。上の写真を見たり、文章を読んだ後だとさらに臨場感があります。そして撮影している所だけではなく、撮影の進行が分かる内容になっています。
広告写真は通常のポートレート撮影(人物写真)とは根本的に目的が異なります。「キャスト」としてのモデルのプロモーションでは無く、モデルも商品プロモーターという「スタッフ」としての一面もあり、商品の世界観やイメージアップを狙いとしたものです。
ポートレート撮影はフォトグラファーとモデルがいると成立しますが、広告写真の場合はクライアントの意を汲んだプロデューサー、アートディレクター、スタイリスト、web デザイナー、ヘアメイクそしてフォトグラファー等のスタッフがいます。その各々のディレクション範囲が完全に明確では無く、重なる部分も多くあります。スポーツの試合でのヘッドコーチ、攻守コーチ、ポジションコーチ、戦略コーチ、キャップテン等がいる場合、試合での局面、局面で重なる部分が発生し、一体、誰がデザインし、どう意思決定していくのかで、どうしても縦割りに役割分担が明確になる訳でもありません。
今回の撮影の場合、私は既に準備されたスタイリング、そしてモデルの動き等から商品毎の絵作りに関してのディレクションと撮影を担当しましたが、源泉からのアートディレクションはしておりません。スタイリングやヘアメイクデザインは担当していないので、厳密にいうアートディレクター兼務ではありません。そこはプロデューサーが兼務し、私は絵作りやライティングをアシスタントを使って事前に組み立て撮影して、プロデューサーと意見調整しながら進行するスタイルを取りました。その辺の撮影現場での進め方を上の添付 YouTube 動画を見て、少しでも感じて頂ければ幸いです。
モデル:
Akira : https://www.instagram.com/___akira_i/(insta)
シャノン凛:https://www.instagram.com/rinshannon_/(insta)
ヘアメイク:吉田愛(Akira担当)、植木大基(シャノン凛担当)
*日本美容専門学校所属
曽田先生
素敵な動画をご作成いただきまして、どうもありがとうございます。
わがままな私共のリクエストを全部吸収してくださり、さらにそこにアートのエッセンスを足してくださった素晴らしい写真が出来上がりました。
一度お願いしたポートレートがロンドンの舞台関係者たちから絶賛されたので、今回ファッション撮影をお願いしたのですが、本当にお願いして良かったです。
お陰様でブランドサイトの評判も上々です。
また、動画自体も映画のメーキングを見ているようで、あの日の感動がよみがえりました。
何もかも、感謝しかありません。
嬉しいコメントありがとうございます。スタイリングが商品にマッチしていたので、撮影シーンやストーリーのアイデアが湧きやすかったです。今後ともよろしくお願いします。